Octave~届かない恋、重なる想い~

「侮辱? 違うな。事実を伝えているだけだろう。あんたは世の中の綺麗なもんしか見たことがないからわかんねぇだろうけどよ」

 私にどんどんにじり寄ってきて、タバコ臭い息を吐きかけてくる。

 その時、お母さんが脚を押さえたまま、こっちに向かって叫んだ。


「もういいでしょう! 帰ろう! 亜美は学校に任せておけばいいから!」


 お母さんの眼は『娘を頼みます』と言っているように見えた。

 でも、それではお母さんが余計にやられてしまう!

 私もその場にいた先生方もみんなそう思った。

 その時、副担任が叫んだ。


「ダメです立花さん! その脚、折れている恐れがあります! 早く保健室で固定して冷やして! こっちです!」

 有無を言わせずお母さんを背負った副担任は、私に目配せをして走り去って行った。さすが空手の有段者。

 あとはこの男に去ってもらえたら問題ないのだけれど、今のでますます逆上させてしまったようだ。

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