Octave~届かない恋、重なる想い~
「結子、どこか痛いところはないか?」
「大丈夫、です……」
雅人さんが私の方へ駆け寄ってきた。
「無事で良かった。みんななかなか玄関から出て来ないから、心配でずっと玄関の前にいた」
「雅人さん……」
私の顔を覗き込みながら、眼をしっかりと合わせてゆっくりと話をしてくれる。
あの男が近寄ってきた時とほぼ同じシチュエーションだというのに、雅人さんだと安心できる。
学校でなかったら、その胸に飛び込んでいきたい。
十分後、警察の車に乗せられてからも、男はずっと私達へ悪態をついていた。
「俺はただ娘を迎えに来ただけだ! 誰も殴ってねえ! 何で俺だけが悪くなってんだ!」
それに対して、教頭先生が丁寧に答えていた。
「交際相手の娘ですから、立花亜美さんはあなたの娘ではありません。亜美さんはあなたに対して怯えていました。亜美さんのお母さんも同様です。さっき突き飛ばしたことと、宇佐美先生の胸倉を掴んだところは、防犯カメラに全て撮影されています」
今はほとんどの学校の玄関に、防犯カメラが設置されている。
こういった事件が後を絶たないからだ。
動かぬ証拠がある上初犯ではないということもあり、男はしばらくの間、立花家へ立ち入ることはできないだろう。