Octave~届かない恋、重なる想い~
「それこそ嫌がらせの犯人の思うツボです! 悔しくないのですか? 絶対に『それ見たことか』って書き込まれます」
「……そう、だろうな」
「私はこれ以上、犯人を喜ばせたくありません。雅人さんを……家族を、応援してくれた人達を悲しませたくないのです」
病気で弱っている父と、それを支え続けて疲弊している母。
もしも二人がこの書き込みを見たらどう思うだろうか。
私達を応援してくれていた人達の眼に触れたら、私達への評価が一変してしまわないか。
まだ目立った実績のない雅人さんにとって、この叩かれっぷりは次の選挙への悪影響に他ならない。
雅人さん自身がどう考えているのか、私にはまだよくわからない。
私と結婚することで『宇佐美』という苗字と地盤・看板を手に入れてしまったら、あとはもう用なし、というのであれば、一刻も早く別れたいのかも知れない。
だとすれば、別れたくない私の気持ちは、単なる重荷でしかない。
もう、何を信じたらいいのか、わからない。
私が選んだ道は、間違っていたのだろうか。
家族を救うために選んだ方法は、結果的に家族を苦しめることになるのだろうか。
色々な想いが頭の中をぐるぐると回っているだけで、言葉が出てこない。
代わりに出てきたのは、涙だけだった。