Octave~届かない恋、重なる想い~

 その時、我が家の電話が鳴った。

 雅人さんが私をそっと離して、電話に出てくれる。


「もしもし……社長、ご無沙汰しておりました。お陰様で私も結子も元気です」


 雅人さんが『社長』と呼び掛けたことから、電話の相手が私の伯父であることが、すぐにわかった。

 宇佐美運輸を退職した雅人さんだったけれど、取引先との細かいやり取りのことなどでしばしば連絡をとっていることがあった。

 でも、社長である伯父自ら電話をしてくることは珍しい。まさか……。


「……そうですか……あれをご覧になりましたか。ええ、私も結子も知っています」


 やっぱり、伯父もあの書き込みに気づいて、心配してくれていたのだろう。


「自分のサイトに書き込みがあった時は削除していたんです。はい……よその掲示板では何もできず、反論すればおそらく炎上すると思ったので、何もしていません」

 そこまで説明した雅人さんだったけれど、どうやら伯父はその答えに納得いかなかったようだ。

「え? 今、ですか? 急な話なので……いえ、わかりました。結子と相談します」


< 194 / 240 >

この作品をシェア

pagetop