Octave~届かない恋、重なる想い~
電話を切った雅人さんが、私の方へ向き直り、こう告げた。
「君の伯父さんに言われたよ。お義父さんやお義母さんが例の噂を知る前に、手を打つべきだと」
「……そう、ですよね。具体的には何をすればよいのですか?」
そう尋ねたら、雅人さんが一瞬顔を曇らせた。そして。
「伯父さんの会社の顧問弁護士が、サイトの管理者に削除依頼を出してくれるそうだ。だけど、一度書き込まれたものは既に多くの人の眼に触れている」
「つまり、取り返しがつかない、と?」
雅人さんは軽く頷いてから、話を続けた。
「盛大な結婚式を挙げて仲の良さをアピールした方がいいと言われたよ。お義父さんの病気と選挙のため式を延期していたことにして、できるだけ早く披露宴を行うのが望ましいそうだ」
私の眼をじっと見て、どんな反応をするのか見極めようとしているのだろう。
雅人さんが私に一歩、近づいた。
結婚式。憧れてなどいないと言ったら嘘になる。
父の病気、突然のプロポーズ、入籍、退職、選挙活動、当選……と、この五カ月ほどの間、結婚式を行うなどという余裕は全くなかった。
それは私の家族も、支持者も、元同僚も、みんな理解してくれていたと思う。
ただ、私達を貶めようとする人達からは、それこそが攻撃対象になるのだ。