Octave~届かない恋、重なる想い~
そうであれば、私が選ぶ方法はただひとつ。
涙を拭いて、一生懸命笑顔を作ろうとした。
きっと、ひきつっているだろう。
それでも、笑おう。
そうじゃないと、私が哀れだから。
結婚披露宴という、人生で一番晴れやかな舞台を作り上げる覚悟を決めなくちゃならないのだから。
私も雅人さんに一歩近づき、しっかり上を向いて目線を合わせる。
「わかりました。披露宴の準備は私がします。雅人さんはお仕事に専念してください」
「本当に、それでいいのか?」
「雅人さんが良ければ」
「俺は、君さえ良ければ」
そう言って、雅人さんはまだ頬に一滴残っていた涙を指でそっと拭ってくれた。
「結子、外堀が埋められてしまうぞ。もう、逃げられなくなる」
「何から逃げるのですか?」
「何から、だろう……。だんだんわからなくなってきた。逃げていたはずなのに、捕まえたくなるんだ。こんな風に」
あっという間に、私は雅人さんの腕に閉じ込められていた。
なぜ今、抱きしめられているのか、雅人さんが何から逃げていたのか、混乱した頭でその答えを導き出すのは不可能だった。
雅人さんは、二人で初めて眠った夜以来、時々こんな風に私を困らせる。
雅人さんも困った顔をしながら、私を振り回す。
私達は、似た者同士なのかも知れない。