Octave~届かない恋、重なる想い~

「私の希望は、父と母を安心させること。それだけです」

「……わかった」


 それだけ言うと、雅人さんは口を真一文字に結び、運転に集中した。

 私も頭の中で、どのように両親へ説明するべきか、シミュレーションしてみる。

 両親の安心のため、という大義名分が、どんどん嘘で覆われていく。

 そんなイメージが湧いてくるのを振り払い、今できる最善の披露宴とはどのようなものか模索した。




「おかえり、結子。雅人さんもどうぞ楽になさってね」


 慣れ親しんだリビングで、母がお茶を淹れながらにこにこしている。


「ただいま、お母さん。お父さんの体調はどう?」

 母に聞いた方がスムーズだと思って、キッチンの方に向かって言葉をかけたのだけれど、答えたのは父だった。

「うん、いい」


 少しくぐもった声ではあるものの、すぐに言葉が出てくるようになったお父さんは、以前よりずっと表情が明るくなったように見える。

 それは、これから私達が伝えようとしている内容に期待しているからだろう。

 
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