Octave~届かない恋、重なる想い~

 目の前に桜茶が二つ、並んでいる。

 母がキッチンから戻って来るまでの間、北の大地で美しく咲いた八重桜が湯呑に浮かぶ様子をぼんやりと眺めていた。

 ゆらゆら、ふわふわ、淡いピンク色が白い湯呑の中に漂っている。

 さして苦労らしい苦労もなく育ち、教員になってから生徒指導、保護者対応に苦慮し、いきなり結婚してしまった私は、この八重桜と似ている。

 咲いたと思ったら満開になる前に摘み取られ、塩漬けにされ、いきなり熱いお湯を浴びせられて……。

 
 せめて、美味しいうちに飲んでしまおう。

 雅人さんが湯呑に口をつけるのを見てから、私も桜茶を味わう。


「はい、少しだけど、甘いものをどうぞ」


 母がお茶菓子を持ってリビングへ戻ってきたタイミングを見計らって、雅人さんが口を開いた。


「今日は、ご相談したいことがあって参りました」


 それを聞いた途端、両親の顔から明らかに喜びの色が消えた。

 ……両親はきっと、違う知らせを待っていたに違いない。

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