Octave~届かない恋、重なる想い~
 
 二人揃って頭を下げた。父の声が聞こえる。

「結子、良かったな」

「うん。ありがとう」

「励みに、なったよ」

「そうでしょう。あと二か月だからね!」


 あの掲示板を見てしまったショックで大ダメージを受けていた私の気持ちも、少しずつ落ち着いてきた。

 この家を、両親を、私達夫婦を守るためのイベントが、もうすぐ始まる。



 帰りの車の中で、雅人さんから尋ねられた。

「披露宴だけで、本当に良かったのか?」

「……だって、神に誓えますか?」

「俺、無神論者だから形式にはこだわらないよ。大事なのは神に誓ったという自分の心の持ちようだと思う」

「自分の心……そう、ですね」


 私が言おうとしたことを、おそらく雅人さんは意図的に流してしまった。

 私達の偽りの結婚は、神様に誓うことなんてできない。

 両親に嘘をつき、周りに嘘をつき、その上神様にまで嘘をつくなんて。


 
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