Octave~届かない恋、重なる想い~

 千花とは高校に入学してから友達になったので、最初、彼女がちしま学園から通ってきていることを知らなかった。

 背の順で、千花が一番前、私が二番目ということからよく話すようになり、入学してすぐの宿泊研修で同じ部屋になったことで一気に仲良くなれた。

 その時に打ち明けられたのが、ちしま学園でのことだった。


 千花のお母さんは、出産後うつ病にかかり、お父さんから離婚を言い渡されたらしい。

 病気を抱えながらひとりで子育てをするのは本当に大変で、泣く泣く千花を児童相談所へ連れていったとのこと。

 千花は三歳の頃からちしま学園で生活するようになり、そこには八歳年上の『雅兄』がいた……。


 お互いの恋バナをする中で、私の片思いの相手である『雅人さん』が『雅兄』であることに、千花はすぐ気づいたそうだ。

 だけど『雅人さん』が、私にちしま学園の話をしたことがない、ということにも千花は気づいていた。

 もしも『雅人さん』がちしま学園出身だったとしたら、千花が私にそれを打ち明けた時、すぐに

「佐藤雅人さんっていう人を、知っている?」と聞くはずだから。


 だから千花は、私の想いも、雅人さんの境遇も知りながら、ずっと黙って見守ることしかできなかったと言っていた。

 ……結婚の報告をした電話口で。

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