Octave~届かない恋、重なる想い~
そんなことをぼんやり考えながら、明日の披露宴で読み上げる予定の手紙をもう一度見直した。
真っ白い便箋を何枚も使って、何度も推敲した手紙。
父と母への感謝の気持ちと、雅人さんへの愛情を率直に書いた。
もしかしたら悪意ある書き込みをする人への耳にも入るかも知れないと計算しつつ。
恥ずかしいけれど、誰も聞いていないのをいいことに、音読してみる。
……恥ずかしい。でもここで照れてはいけない。
当日はもっと緊張するし、父の姿を見たら泣いてしまうかもしれない。
それでも、このチャンスを逃したら、私が雅人さんと結婚した理由が本当に『政略結婚』になってしまう。
左手の薬指にある、プラチナのリングを見て気持ちを奮い立たせる。
私はずっと好きだった人と結婚できた。
子どもだった私の恋心は、忘れることができないまま、一緒に成長してきた。
中高生時代の私が、社会人の雅人さんへ想いを届けたとしても、それは迷惑になるだけ。
でも、今は違う。
夫になった雅人さんにだったら、許される。
素直に好きだと告げることを。