Octave~届かない恋、重なる想い~

 九時半を過ぎた頃、チャイムが鳴った。

 やっと帰って来た雅人さんを出迎えようとしたところで、ダイニングテーブルに広げたままの手紙を何とかしなくてはならないと気づき、慌てて手紙を隠した。

 出迎えがやや遅くなってしまったので、急いで玄関へ行こうとしたら、スリッパが脱げてバランスを崩してしまった。

「きゃあっ!」

 前のめりに倒れる寸前のところで、リビングに飛び込んできた雅人さんが叫んだ。

「結子!」

 床にぶつかる衝撃を予想して伸ばした腕の先に、支えようとしてくれた雅人さんが滑り込んできた。

 私の顔の下に、雅人さんの大きな身体があり、クッションのように受け止めてくれたようだった。

 身構えてぎゅっと閉じた目を、恐る恐る開いてみる。

 ほっとした表情の雅人さんの顔が、すぐ目の前にあった。


 驚いて声も出せず、ただ雅人さんの澄んだ瞳を見る。

 すると、ため息をついた雅人さんの胸が動いた。

 いつもより低い声で、問われた。


「明日、何の日か覚えてる?」

「披露宴です」

「……気をつけて」

 雅人さんが話すと、私の身体にまで声が振動してくる。

「すみません。あざができるところでした」

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