Octave~届かない恋、重なる想い~

 私の発した言葉によって、今度は雅人さんが固まった。

 それをいいことに、大きな身体の下から抜け出す。そして。


「私の気持ちは明日、両親への手紙の中でお伝えします。これは『仲良しアピール』ではなく、本心です。曖昧なままではお互いのためにならないと思いました」

「そう、だな」

「だから明日のために、まずは晩御飯を食べて、早く寝ましょう!」


 脱げてしまったスリッパを履いて、パタパタとキッチンへ急ぐ。

 それは私の照れ隠しであり、親密な雰囲気をまだ『怖い』と思ってしまう自分の幼さを態度で示しているようでもあり……。

 
 それからは、いつもと同じ『適切な距離を保ったまま』の晩御飯で、会話の中心は明日の日程についてだった。

 千花の話を聞きたくてうずうずしていたけれど、今聞いてしまうとさらに心が落ち着かなくなるような気がして、我慢した。



「おやすみ、結子」

「おやすみなさい、雅人さん」


 いつもと同じ、別々の寝室で眠る私達。

 明日、大勢の人の前で、夫婦として違和感なく振る舞うことができるだろうか。


 愛されているという演技を絶対に成功させなくてはならない。

 雅人さんのため、両親のため、家のため、そして私自身のために。

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