Octave~届かない恋、重なる想い~


 今日の私は、雅人さんと並んで歩くため、普段は絶対に履かない八センチ以上もありそうなヒールで、重たいドレスを引きずっていた。

 八センチかさ上げしてもなお小さな私が隣に並ぶと、雅人さんの大きさが強調されるようで、盛んにそのスタイルの良さを褒められている。

 本当に、今日の雅人さんは素敵だった。

 慣れないヒールによろける私をしっかり支えてくれながら、笑顔を絶やさず周りに感謝の言葉を伝えている。

 お客様に不愉快な思いをさせないよう、気を配りながらも、私への言葉かけも忘れない。

 お色直しで退席した時、歩きながらこんな話をした。



「お義父さん、嬉しそうで良かったな。まだ疲れは見えないけれど、無理しないように伝えてもらおう」

「ありがとうございます。雅人さんのお蔭です。あの時、雅人さんがいなかったら……」

「君は今頃、どこかの小学校の創立記念行事に駆り出されて、市議会議員として挨拶していたかも知れないぞ」

「ふふふ。雅人さんが欠席の連絡をしたあの小学校、ですね」

「ああ。『地味過ぎる市議会議員』なんていう触れ込みで市内を回っては、ヤジを飛ばされて凹んで帰って来る、なんてね」

「リアル過ぎて笑えませんから!」

「じゃあ結子、あとで『泣ける手紙』を期待している」


 そう言われて、新婦控室の前で別れた。

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