Octave~届かない恋、重なる想い~
マイクの前に立ち、手にした白い便箋を開く。
手がかすかに震え、自分が緊張していることを改めて感じてしまう。
それでも、目の前にいる父と母、そして雅人さんをじっと見つめて、心を落ち着けようと試みる。
雅人さんの口元が『頑張れ』と動いたのを確認したので、大きく頷いた。
手紙には書いていないけれど、私はまず、今の両親を見て伝えなくてはならないことを先に話すことにした。
「この日のために、懸命にリハビリに励み、長時間の式に耐えられるようになったお父さん。
もう、身体を楽にして座ってください。
今は車椅子で金屏風の前にいるけれど、その背中はぴんと伸びていて……その姿を見ただけで涙腺が緩んでしまいます。
そして、常にお父さんを支え、懸命に介護してくれたお母さん。お願いです、どうか座って聞いてください。
お母さんが立ったままだと、お父さんがくつろげないと思うから。そうでしょう、お父さん?」
父に同意を求めると頷いてくれたので、椅子を用意してもらい、母にも座って聞いてもらうことにした。
その様子を見て、雅人さんがほほ笑んだ。
私も笑って、手紙をきちんと開く。もう、手は震えていなかった。