Octave~届かない恋、重なる想い~

「お父さん、お母さん。

 ありきたりかも知れないけれど、今まで育ててくれてありがとうございます。

 私はこの家で生まれ育ったことを、本当に感謝しています。

 家庭の温かさ、お互いを思いやる心、礼儀作法、そして親としての愛情……全てお父さんとお母さんから学びました。

 
 私は、生まれた時から親の期待を裏切る子どもだったと思います。

 政治家の第一子が女の子、しかも地味でおとなしくて何を習わせてもパッとしない子どもでした。

 出来の悪い私でしたが、叱り飛ばすこともなく『結子はそのままでいいんだよ』と、ありのままを受け止めてくれるお父さんとお母さんのお蔭で、私は自己肯定感を下げることなく、希望をもって前に進むことができたのだと思います。

 そんな幸せな私に、転機が訪れました。

 中学三年生のお正月、雅人さんが伯父さんに連れられて、初めて我が家に来てくれました。


 当時、雅人さんは大学を卒業して社会人になったばかりの二十三歳。

 受験生だった私の家庭教師になって欲しいと頼み込んでくれたのが、お父さんでしたね」


 同意を求めるように父を見ると、うんうんと頷いていた。


 
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