Octave~届かない恋、重なる想い~
「このように私にとって最高の両親でしたが、世間知らずでわがままな私は、ただ一つだけ不満に思っていることがありました。
それは、政治家の娘であるということです。
私は出来の悪い娘だったので、それが重荷でした。
家族のことより政治が優先のお父さんと、選挙の度に振り回されているお母さん。
選挙期間中、どんどんやつれていくお母さんを見るのが辛くて、もういっそのこと引退して欲しい、市長になんてならなくてもいいじゃない、という言葉を飲み込むのに必死でした。
それなのに、集中治療室で眠っているお父さんを見た時、真っ先にお父さんの無念を感じて『悔しい』という想いが沸き上がってきたのです。
お父さんが必死に取り組んできた仕事を、志半ばで諦めることになることが確実な病状でした。
今夜が峠だと言われた夜、一晩中、祈りながら泣きました。
私はまだ何一つ、お父さんに親孝行していないのですから。
そんな、我が家がボロボロの状態だった時、病室で雅人さんと再会を果たしました」
父の隣に立つ雅人さんへと、私は視線を移した。
まっすぐ、私を見つめ返してくれる雅人さんへ、自分の正直な想いを届けるために。