Octave~届かない恋、重なる想い~

「最後になりますが、もう一度言わせてください。

 私は、お父さんとお母さんの娘として生まれることができて、本当に幸せです。

 これからも、どうかいつまでも元気でいてください。

 私達の親孝行は、今日、ようやくひとつだけ形にすることができました。

 まだまだ足りないと思いますが、夫婦としての歩みはじめたばかりの私達を、これからも温かく見守ってください。

 結子より」



 深く一礼する私の耳に、大きな拍手の音が聞こえた。

 ふうっと深く呼吸してから、ゆっくりと頭を上げる。

 車椅子の上で背中をぴんと伸ばして、でも表情はくしゃくしゃのお父さんが見えた。

 涙を流すお父さんを見るのは初めてで、私も堪えていた涙を流しながら、右手に手紙を握ってもらう。

「ありがとう」

 ゆっくりと、でも、今までよりはっきりと発音されたお父さんの声は、倒れる前とほとんど同じで、ますます涙が出た。

 辛いリハビリを、今日のためにものすごく頑張っているという話も聞いていたから。


 お母さんには、花束を渡す。

「一緒に幸せになろうね」

 その言葉に深く頷いた。そう、結婚しても私達は家族だから。

 私の幸せはお母さんの幸せでもあるのだという、温かい意味がこめられていることがわかった。

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