Octave~届かない恋、重なる想い~
「本日はお忙しい中、私達のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。
沢山のお祝いのお言葉、励ましの声を頂戴いたしましたこと、心よりお礼申し上げます。
今だから白状できるのですが、私は結婚、という制度に対して夢も希望もなく、むしろ嫌悪感すら覚えていました。
ここにお集まりくださった皆様はご存知のことと思いますが、私が生まれ育った環境を考えると、それは当然のことなのです。
いずれ裏切られるのなら、愛さないようにしよう……そうすれば、傷つかずに済むという、自己防衛本能から出た行動でした。
それを結子が根底から覆しました。
出会った頃はまだ、十五歳の中学生でした。
受験生だった結子の勉強を見ているうちに、気が付きました。
……この子から好意を寄せられている、ということに。
正直なところ、それはまずいと思いました。
当時の私は既に社会人です。青少年育成条例違反で捕まります。
しかも市議会議長の娘ですから、孤児院出の私などと釣り合うはずもありません。
たとえどんなに結子が可愛くても、素直で優しい性格が好ましいと思っていても、それを表に出すことは許されないのです。
大学合格を機に、もう、この家には来ないと、結子に告げました。
それは、大人としての私の責任感とプライド、そして自己防衛本能が働いた結果でした」