Octave~届かない恋、重なる想い~
「お義父さんとお義母さんが慈しみ、大切に育ててくれた結子を、今度は私が一生かけて守っていきます。
お二人のような温かい家庭を築けるよう、これから努力していきたいと思います。
結子は私には勿体ない、素敵な女性になりました。
十年前は絶対に許されなかった言葉ですが、今、ここで言わせてください」
あ、と思った時には、雅人さんはマイクの前から離れ、私のちょうど向かい側三十センチの距離にいた。
会場が、しーんと静まり返っている中、マイクを通さない雅人さんの声が響く。
「結子と幸せな家庭を作りたい。これから一生かけて」
その言葉は、演技ではなく、真実だと思った。
だから私も、涙を拭いながら真剣に答える。
「幸せに、なりましょう」
話したいことはいっぱいあった。でも今はこれが精一杯。
「ありがとう。十年、待った甲斐があった」
おでこに素早くキスされた。
まさか、ここでするなんて。
赤くなる私に、会場からは大きな拍手が沸き起こった。
そのまま手を繋いで、今度は私も一緒にマイクの前へ。
「未熟な二人ですが、今後は支え合って温かい家庭を作り上げていく所存です。
本日は誠にありがとうございました」
二人揃って、ゆっくりとお辞儀をした……。