Octave~届かない恋、重なる想い~

 ソファに座る雅人さんの背中が、ぴんと伸びた。

 私も慌てて体勢を整え、しっかりと向かい合う。


「十年、待った。結子が大人になって、俺の全てを理解してくれるまで。俺自身『虐待せずに子育てできる』という自信がもてるまで。その両方の準備が整うまで、待ち続けようと思った」


 私をまっすぐに見つめる眼も、真剣な表情も、全てが雅人さんの本心を表している。

 さっきの挨拶で話していたことが本当だったら、私はずっと前から雅人さんに愛されていた……。


「私も、十年待ちました。雅人さんが私の気持ちに気づいてくれるまで」


 つい、ストレートに本心を呟いた。すると、雅人さんは苦笑いしながら私の肩を抱いた。


「そんなの、とっくに気づいてたから距離を置いた。好きだっていう想いだけでは駄目だ」

「もう、駄目じゃないです」

「ああ。だからもう、我慢しない。まったく、どれだけ俺が耐えていたのか気づいてもいなかっただろう」

「そんな時、ありましたか?」


 意外だった。そんなそぶりは見た覚えがないはず。

 私が首をかしげると、盛大にため息をつかれた。

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