Octave~届かない恋、重なる想い~
胸に響く、雅人さんの声。
家族への憧れが誰よりも強かったから、私の気持ちを知りつつ踏み出せなかった雅人さんの想い。
二人の想いが、十年経った今、ようやく届いたのだと感じた。
今日の私は、誰よりも幸せな花嫁だと自信をもって言える。
思慮深く慎重に深い愛情を注いでくれた雅人さんの想いが、私の心に浸透した日だから。
「一生、添い遂げます。ずっと幸せな家族でいるために、長生きしてくださいね」
「約束する。結子の料理をずっと食べられるなら、いつまでも元気でいられると思うから」
「雅人さん、大好きです。好きだから……」
―—契約結婚の『契約』はもう、必要ないですよね?
そう言おうとしたのに、唇が塞がれてしまい、言わせてもらえなかった。
苦しいほど長く、熱を帯びたキスのあと、こう告げられた。
「本物の結婚生活を今からはじめよう。いいね?」
有無を言わせない強引な口調ではあったけれど、私も同じ気持ちだったので頷いた。
すると、もう一度きつく抱きしめられて、宣言された。
「十年も待たされて、半年以上ひとつ屋根の下で我慢した。もう待てないから覚悟を決めて」