Octave~届かない恋、重なる想い~
Epilogue
「パパ、はやく!」
「待て、健人(けんと)。可愛い妹を置いていくのか?」
「だからママをてつだうの!」
「そうか、偉いな。健人はいいお兄ちゃんだ」
「まあね。だってもう、よんさいだから」
二人の男性陣のやり取りを微笑ましく聞きながら、お出かけの用意をする。
オムツ、着替え、ウェットティッシュ、おもちゃ……マザーズバッグはいつも容量いっぱいだ。
そのうちに、ベビーベッドで眠っていた娘が目を覚まし、泣き声をあげた。
「りんこがおきちゃった」
「ああ、そろそろ出かけるところだったし、ちょうどいい。凛子、おはよう」
準備に忙しい私の様子を見て、雅人さんが娘をあやしながらオムツ替えをしてくれた。
「雅人さん、ありがとう。……あ、おじいちゃんとおばあちゃんが着いたみたい。健人、玄関を開けて」
「りょーかーいっ!」
チャイムの音と共に玄関へと走り出した息子が、大きな声で「いらっしゃーい!」と叫んでいる。
両親がリビングに現れ、我が家はますます賑やかになった。
これから、私達家族は雅人さんの選挙事務所へと向かう。
―—市長選への出馬を表明するために。