Octave~届かない恋、重なる想い~

 雅人さんは市議会議員を二期務めた。

 一期で弟の淳史に地盤を譲るつもりだったのだけれど、淳史はMBA取得を目指して留学してしまったから。

 予定より少し長く市政に関わることになった雅人さんは、精力的に活動し、議会でも一目おかれるようになった。

 
 その間に、現役市長の汚職事件が明るみに出て、市長が辞任に追い込まれた。

 市民ホール建設の際、建築業者との癒着があったという内部告発が市議会に届いたとのこと。


 雅人さんは当初の予定を変更して、三十代で市長に立候補した。

 雅人さんから立候補についての相談を受けた時、私は冗談めかしてこう言った。


「市長でいいの?『先生』って呼ばれなくなると思うけど」

 すると雅人さんも笑って答えてくれた。

「市長の次は国会議員を目指すよ。だからまた『先生』になれるだろ?」

「雅人さんらしい。解った、応援します。もし落選したら私が『先生』に戻って養ってあげる」

「結子らしい。……苦労させると思うけど、覚悟はいいか?」


 私は深く頷きながら、ちょっとだけ笑いじわの増えた雅人さんの顔を見上げた。


「もちろんです。家族で一緒に苦労を乗り越えることが、私の幸せだから」

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