Octave~届かない恋、重なる想い~
「私がこの街に必要だと思うものが、三つあります。一つ目は、いつでも、誰もが安心して暮らしていけるインフラの整備です……」
事務所での演説を聞きながら、抱っこ紐で揺られている娘の顔を覗き込んだ。
雅人さんにそっくりな、幼い中にも凛とした雰囲気のある女の子。
あなたのパパは、こんなに凄いお仕事をしているのですよ、なんて心の中で語りかける。
私の心が通じたのか、泣くこともなく、黙ってパパの声を不思議そうに聞いている。
「ねえママ、パパってかっこいいね」
手を繋いでいた息子が、私を見上げて囁く。
「そうね。パパはとっても素敵だね」
私も思わず同意したら、息子がにっこり笑ってこう言った。
「ぼくもいつか、パパみたいになれるかな?」
「もちろん。健人がパパのように努力できる人になれたら、きっと素敵な大人になれる。ママはそう信じてるよ」
そう伝えると、満面の笑みで繋いだ手をぶんぶん振った。
嬉しい時の息子の癖が出た。そしてその興奮のまま、叫んだ。
「パパがんばれ~!」