Octave~届かない恋、重なる想い~

「私がこの街に必要だと思うものが、三つあります。一つ目は、いつでも、誰もが安心して暮らしていけるインフラの整備です……」


 事務所での演説を聞きながら、抱っこ紐で揺られている娘の顔を覗き込んだ。

 雅人さんにそっくりな、幼い中にも凛とした雰囲気のある女の子。

 あなたのパパは、こんなに凄いお仕事をしているのですよ、なんて心の中で語りかける。

 私の心が通じたのか、泣くこともなく、黙ってパパの声を不思議そうに聞いている。


「ねえママ、パパってかっこいいね」


 手を繋いでいた息子が、私を見上げて囁く。


「そうね。パパはとっても素敵だね」


 私も思わず同意したら、息子がにっこり笑ってこう言った。


「ぼくもいつか、パパみたいになれるかな?」

「もちろん。健人がパパのように努力できる人になれたら、きっと素敵な大人になれる。ママはそう信じてるよ」


 そう伝えると、満面の笑みで繋いだ手をぶんぶん振った。

 嬉しい時の息子の癖が出た。そしてその興奮のまま、叫んだ。


「パパがんばれ~!」

< 237 / 240 >

この作品をシェア

pagetop