Octave~届かない恋、重なる想い~
これであと4年は周りから「彼氏は?」とか「仕事はこれからどうするの?」なんて聞かれることもなくなると思えば、この立場はそう悪くない。
25歳の私は、33歳で市議会議員に立候補する雅人さんの妻になる。
穏やかに笑い、いつも理知的で優しい人だと思っていた、8歳年上の男性。
その雅人さんが実は、巧妙に野心を隠して私に近づいてきたと知ったのは、入籍して最初の夜の事だった。
「はっきりさせておこう。俺は地盤・看板・カバンがもらえたらそれで満足だ。
形式上、夫婦になっているが、離婚を円滑に進めるのであれば、肉体関係はない方がいい」
まさか、そこまで割り切った結婚にこだわるなんて、信じられない。
本当の夫婦になる覚悟を決めていた私は、激しい失望感で目の前が暗くなった。
「離婚を前提に結婚する、というのですか?」
「そうではない。いつ離婚しても、お互いの被害が最小限で済むようにしようと提案しているんだ。……君を犠牲にしないために」
片思いのまま便宜上の妻となった私は、自分専用の寝室で、眠れない初夜を迎えた。