Octave~届かない恋、重なる想い~
「そうでしょうけれど、あまりにも急なので、きっとみんなが驚きます。
 ……信じてもらえないかも知れません」

 
 私達の結婚が偽物であることは、世間にはもちろんのこと、家族にだって隠しておきたかった。


「……君はご家族に、愛し合って結婚するという報告をしたいんだね。
 当然俺もそのつもりでいたよ。
 君のお父さんに君たちきょうだいのことを頼まれたのも、何となく思い当たるところがあったから、かも知れない」

「あの……私の父から、具体的に何を頼まれたのですか?」


 筆談しかできない父が、込み入った内容の頼み事をするとは思えなかったけれど、とても気になっていた事は確か。


「いや、ただ『頼む』とだけ……もう少し詳しく聞きたかったけれど、病人を疲れさせてもいけないだろうと思った。
 俺は黙って頷いたけど、深い意味はわからない」
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