Octave~届かない恋、重なる想い~
 このあたりに児童養護施設は、ここしかなかった。


「そう、ちしま学園。ここで高校3年まで過ごして、地元の優良企業である宇佐美運輸から奨学金をもらって大学へ進学した。
 だから、就職先もそのまま君の伯父さんの会社って訳」

「そうだったんですか……」


 全く知らなかった。

 だって、雅人さんは現役でH大経済学部に合格した頭脳の持ち主。

 教育熱心な親御さんが、塾や予備校に通わせていたのだと思い込んでいた。

 お正月に実家へ帰らなかったのは、何か事情があるのだと思っていたけれど、まさかこんな事情だったとは……。


「俺は私生児だったんだ。父親からは認知もされていない。
 母親は総合病院の看護師で、当時その病院に勤めていた研修医が、俺の父親だってさ。
 母はよく寝言で『先生』って言っていたよ。今にして思えば、俺の父親のことだろうな」


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