Octave~届かない恋、重なる想い~
伯父からは、私が選挙に出るよう説得された。
25歳になったばかりの、政治には素人である私でも、父の同情票と物珍しさで当選するだろうと。
でも私は、政治家になることだけは嫌だった。政治と関係ない生活を送るために、選挙活動を禁止されている職業……教員を選んだくらいなのだから。
選挙の時期が近づくにつれ、どんどんやつれていく母を見るのが辛かった。
どんな暴言を吐かれても、ひたすら頭を下げて耐えている母は、それでも父を必死に支えていた。
けれども、子どもである私達にまでそれを要求するのが嫌で仕方がなかった。
「ここで父の地盤を他の候補に取られては、政治家を目指して勉強している敦史が可哀想だ。父親も無念で生きる気力を失う」などと伯父から散々言われ、私はどうしたらいいのかわからなくなっていた。
そんな時、父の病室で雅人さんと再会した。
父は筆談で、雅人さんにこうメッセージを伝えていた。
「結子と敦史をたのむ」