Octave~届かない恋、重なる想い~
「そんな……」

「母はいつの間にか、酒を飲んで現実逃避するようになっていた。
 看護師の仕事は不規則でさ、夜勤明けは昼間から酒を飲んで、酔って暴れた。
 家にいると危なくて外に出ていたら、何度か警察に保護されて、その度に母がまた怒るんだ」


 酷い話だというのに、雅人さんはなぜか薄笑いを浮かべて語っている。

 その様子が怖くて、思わず自分の身体をぎゅっと小さくした。


「それでも母親だからさ、甘えたいって思う時もあったよ。
 寝ている時ならいいかと思って、布団の中で擦り寄ってみたら、それも嫌がられた。
 いつも俺に背中を向けて寝ていたんだ」


 まだ小さくて、甘えたい盛りだったのに、抱っこもしてもらえなかったという事、だろうか。
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