Octave~届かない恋、重なる想い~
 とんとん、と私の手を軽く叩く感触があった。

 父が、私と雅人さんに筆談で伝えようとしている。

 ホワイトボードに書かれた文字は

「娘を頼みます」

 という、6文字。


 書き終わってから、雅人さんに向かって、一生懸命話している。


「結子を、幸せに、して下さい」


 はっきり話せない父は、今まで他人にはほとんどしゃべらなくなっていた。

 でも今は、自分の言葉で雅人さんに伝えようとしてくれているのだろう。

 ごめんなさい、お父さん。

 幸せになれる保証はないけれど、この結婚を後悔しないために、今、自分ができることを頑張るからと、心の中で誓った。
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