Octave~届かない恋、重なる想い~
 涙ぐむ私と、不自由な体で一生懸命に自分の意思を伝えようとしている父を見て、雅人さんはどう思っているのだろうか。

 幸せな家庭を知らずに育ち、存在すら否定された雅人さんは、私と結婚することで初めて、身近に『家族』を感じながら生活することになる。

 私には、夢があった。

 いつか幸せな結婚をして、たとえ忙しくてもお互いを信頼しあう父と母のような夫婦になること。

 子どもも男の子と女の子を育てられたら理想的だな、と。

 自分がかつて着ていた着物を着せて、娘の七五三を祝うこと。

 実家にある大きな鯉のぼりを息子に見せて、一緒に「こいのぼり」の歌を歌うこと。

いつか叶うと思っていた夢が、実現する日は来るのだろうか。
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