Octave~届かない恋、重なる想い~
父のベッドを起こして、テーブルをお腹の近くまで引き寄せる。
小皿に入れたすりおろしりんごを食べる父を見ていると、いつも切なくなる。
ついこの間まで、あんなに元気だったのに。
そんな私の心の中を読み取るように、雅人さんが声をかけてきた。
「リハビリを続けたら、今より状態は良くなりますよ」
「ええ。お医者さんからもそう言われています。だからお父さんもリハビリ頑張ってね!」
二人に笑いかけながら、私もりんごを食べる。
「このりんごのうさぎ、懐かしいなぁ。結子さんは昔から器用だったから」
初めて会った時、私が剥いたりんごのうさぎを、彼はとても喜んで食べてくれた。
今も嬉しそうにそれを食べる彼を見て、あの頃抱いていた憧れを、昨日のことのように思い出す。
りんごを食べ終わった時、雅人さんが立ち上がった。
「そろそろ失礼します。どうぞお大事になさって下さい。結子さん、りんごのうさぎ、ご馳走様でした」
せっかく会えたのに、もう行ってしまう……。