Octave～届かない恋、重なる想い～

「私、もうちょっと働けますよ」

　と雅人さんに言うと


「いや、君は選挙が嫌いなんだろ？
わざわざ君の手を煩わせなくても、こっちで何とかできるから」

　などと言って拒絶されてしまう。


　確かに、私が手伝わなくても父の地盤と同情票、そして雅人さん自身の資質で当選できるのではないかと思われていたけれど。

　今まで父の選挙戦を見てきた私にとって、妻も重要な役割を果たすことは十分承知していた。

　後援会の皆様方への接待、選挙カーでは後ろに控え、一緒に支持者の集まりに参加して何度も握手とお辞儀を繰り返す。

　それが政治家の妻のあるべき姿だと思っていた。

　でも、雅人さんは私にそれを要求しない。