Octave~届かない恋、重なる想い~
 雅人さんは、真顔でこう言った。


「いや、君が無理して苦手な仕事をする必要はないよ。
 俺に地盤・看板・カバンを用意してくれただけでも十分だ。
 あとは自分で頑張るさ」


 でも……と食い下がってみた。


「黙って見ているだけなんて、できません。
 確かに選挙は苦手ですけれど、何もしないでいることは、もっと苦手です。
 お弁当、一緒に食べたいんです。
 当選した時に、一緒に喜びたいんです。
 だから、連れて行って下さい」


「そこまで言うのなら……でも、一度来てしまったのであれば『やっぱりやめた』はナシ、だぞ。
 頼んだよ、奥さん」


 久しぶりに、雅人さんが笑った。
 今まで疲れた顔ばかりだったので、本当に嬉しくなった。
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