Octave~届かない恋、重なる想い~
残念だけれど、私に引き止める権限はない。
「こちらこそ、ありがとうございました。お忙しいのにわざわざ来て頂いて、父も喜んでいます」
そう伝えた時、父が目配せした。お見送りしなさい、という合図だ。
「あの、下までご一緒させて下さい」
「いいんですか? お父さんお一人になりますけれど」
「ええ、もう少しで面会時間が終わりますから」
私がそう言うと、父も小さく「うん」と返事をしてくれた。
「そうでしたか。それでは宇佐美さん、どうぞお大事に」
病室を出て、廊下を歩きながら雅人さんが話しかけてきた。
「ここ最近、色々あったから疲れているでしょう? 仕事しながら、休日はこうやって病院につきっきりで」
「いえ、私なんてまだまだです。母は月曜から金曜まで毎日ずっとですから」
「看病以外の事で、何か悩み事があると思うけど。俺で良かったら聞かせて欲しい。お父さんからも頼まれてるし」
父が頼んでいたのはこのことだったと知った私は、安心して彼に相談することに決めた。
「実は……」