Octave~届かない恋、重なる想い~

 こうして、私も少しずつ前へ出て雅人さんの応援をするようになったけれど、やはり選挙の雰囲気は苦手なままだった。

 本当は私も選挙カーの上で語ったり、演説を聞いてくれる方々にご挨拶をしなくてはならないのだけれど、どうしても積極的に動くことができないまま。


 時々雅人さんがこう言ってくれる。

「結子さんは無理しなくてもいい。君がいてくれるだけで十分だから」

「だけど……私、本当にくっついてきているだけ、ですよね」

「いや、俺の心のよりどころになっている。もちろん、演説のネタにもね」


 そんな風に悪戯っぽく笑われて、私が照れているところを、選挙事務所のみんなが冷やかす。


「ちっちゃい頃から見てるけど、結子ちゃんは本当に可愛い奥さんになったね~」

「雅人君に大事にされているんだね。いや~、ごちそうさん」

「あ~あ、俺も早く嫁さん見つけないと……」


 父の地盤を受け継いだ事務所だから、みんなが私のことを小さい頃から知っている。

 そんな人達をも騙していることが、辛かった。

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