Octave~届かない恋、重なる想い~

 選挙戦最終日となった。

 土曜日の夜、7時半ということで、雅人さんは郊外にあるショッピングモールを最後の演説の場所に選んだ。

 レイトショー目当てのお客さんが、次々と駐車場へ向かっていく。

 ほとんどが若い人だった。


 私はいつものように、選挙カーの下で、雅人さんの演説を聞くことにした。

 まだ肌寒い中、スーツに白手袋で演説を始める雅人さん。

 この姿も、今日で見納めかも知れない。

 4年後、私達はどうなっているのかわからないのだから。


「最後のお願いということで、いつもは3分で終わらせるのですが、特別に5分、お時間を頂ければと思います。

 レイトショー、まだ開場前ですよね? 大丈夫です、ポップコーン買う時間はたっぷりありますから」


 営業職にいただけあって、やっぱり雅人さんは話の切り口が他の候補と違う、などと思って聞いていた。

 少しずつ、足を止めてくれる人が増えてきたような気がする。

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