Octave~届かない恋、重なる想い~
選挙カーの上の雅人さんは、真剣なまなざしで立ち止まってくれた人々に訴えかける。
「残念なことに、この街が全国平均を大きく上回っているのは、失業率、高校中退率、生活保護受給率、離婚率、そして人工妊娠中絶率です」
……いつもより踏み込んだ、耳の痛い話をしようとしているのがわかった。
「なぜだと思いますか? 私はこう考えます。この街の子ども達はずっと……今のおじいちゃん、おばあちゃんの世代からです……学力検査の正答率、家庭学習時間が全国平均を大きく下回っているからです。学ぼうとする気力、考える力、忍耐力……これらが足りないと、学力は伸びません」
ひと呼吸おいて、雅人さんはちらりと私の方を見た。
何かを言おうとしているのかも知れない。
「私は家庭的に恵まれず、子ども時代は児童養護施設で過ごしました。それでも、施設へ毎週ボランティアに来てくれた大学生のお兄さんが、熱心に勉強を教えてくれたこともあり、奨学金で大学へ進学しました。今、私がここに立っているのは、その時の勉強のお蔭だと言えます」
生い立ちを公表した雅人さんの話に、それまで聴きながしていた人も、向き直って真剣に耳を傾け始めたのがわかる。