Octave~届かない恋、重なる想い~

 あちこちから拍手が聞こえた。

「ありがとうございます。かくいう私は、学力だけを詰め込んで大人になりました。何しろ養護施設育ちですから、常に自分はいらない子だ、誰も自分を必要としてくれないと思っていたのです。だけど、学力を詰め込んだ結果、まず自己肯定感が上がりました」

 選挙カーの周りには、今までになく人だかりができていた。

 誰かの応援演説があったわけでもないのに、この盛況ぶりは初めてだった。

 雅人さんが本音で話していると、きっと聴衆にも伝わっているのかも知れない。

「自分にもできることがあった。周りから褒められた。大学へ進学できた……。それがどれだけ嬉しかったか、普通のご家庭で育った方には想像もつかないかも知れません。今は大学進学率がおよそ5割。でも、児童養護施設の場合、短大・専門学校を含めた進学率がたったの1割です。
 児童養護施設は、大半が高校卒業と同時に就職して、そこを出ていく、それが当たり前でした。でも、運よく私は給付型の奨学金を得て、大学を卒業することができました」

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