初恋シグナル~再会は恋の合図~
「席につけー」
ガラッ、という教室の前のドアが開いた音と、気のない先生の声に、ざわざわとしていた教室が徐々に静寂を取り戻す。
私も、机の上に広げていた参考書をとじて、顔を上げた。
30代半ば。
新婚にしては幸の薄そうな顔。
4月という時期にぴったりな、花粉症ゆえのマスクが顔の半分を覆っている。
担当教科は古典。
……の、私のクラスの担任。
いつもどおり、クラス委員が号令をかけ、気だるい朝の挨拶が教室に響き、ガタガタと席に着いた。
いつもどおりの、朝の光景。
あれだよね。
小学校低学年までは、朝の挨拶だって、授業の前の号令だって、もっと覇気があったと思うんだけど。
いつのまにか、形式だけになったよね。
……なんてどうでもいいことを考えてぼんやりしていた。
次は出欠をとるのが毎日の風景。
……だけど、今日はそうじゃなかった。
「辻村、入れ」