初恋シグナル~再会は恋の合図~
「……私、結局湊ちゃんのことを手放すなんてできなかったの」
視線を伏せて、彩織さんはそう言った。
彩織さんの言葉は確かに耳に届くのに、どうしても意味を飲み込むことができなくて、私はただ黙って、つらそうな彩織さんを見ていることしかできなかった。
「……真二くんを、裏切ってたの」
「それ、どういう……」
「……奪ったの」
「え……」
「……真二くんの、サッカー部での居場所を、奪ったの……」
涙声で彩織さんはそう言うと、ぐっと俯いて、両手で顔を覆った。
微かな嗚咽が聞こえてきて、泣いているんだと気付く。
泣きながら、彩織さんは途切れ途切れに言葉を紡いで、私に伝えようとしてくれた。
「私の家と湊ちゃんの家は、かなりの額を藤桜に寄付してて。……だから、簡単だったの。全部、馬鹿みたいに、簡単だったの」
「……もうちょっとわかりやすく言ってください」
これじゃあ、私の憶測が混ざってしまう。
……絶対にあってほしくない、憶測が。