平凡じゃ、だめですか？

詠子は『虹の足』という詩が大好きだった。
学生時代の国語の教科書に載っていた詩だ。

小さな村といくつかの家が虹の終わりにすっぽり包まれているが、その村にいる人は誰も気がつかない。多くの人が幸せの渦中にいることに気がつかずに生きていくのだという詩だ。

幼い頃の詠子の家庭は争いごとが絶えず、食卓を囲んで普通に食事をするだけのことがこんなに難しいものなのか、といつも泣いていた。

だから、誠一と結婚した今の生活で
自分が今現在、虹の足の中にいることを自覚できる。

ずっとは続かないかも知れないけど、
意識すれば一日でも長く続けることができるかも知れない幸せ。
それをを感じながら生きるということ。

それだけで人生は楽チンになるのだった。