君に捧ぐ、愛の唄

―学校―



「……」



昼休み、私、宮川若菜(みやかわ わかな)は物陰から一人の男の子を見ていた。


まだ春の、あまり人が近寄らない進路相談室。


そこで彼は、何をするでもなくただ、窓から空を見上げていた。



櫻井智哉(さくらい ともや)



顔を隠すように、己と世界を隔離するように、長く伸ばされた前髪。


しかし前髪の隙間から覗く目が、すっと高い鼻が、彼の端正な顔立ちを物語っていて。またその前髪も、彼の独特な雰囲気を助長させ、見るものを惹きつける要因であった。



そんな、一般的にかっこいいと言われる部類の彼を見ている理由は、恋愛感情などではなく、ただ知りたいから。





「…あのっ」



意を決して、私は彼の前に飛び出した。



< 4 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop