明日なき狼達
「この右足の仇をとらなきゃ……」

「あんた何を馬鹿な事言ってんの。今度は足だけじゃなく命迄持ってかれるんだよ!」

「姐御のダイヤも取り返さなきゃ……」

「そんなもんくれてやるさ。何千億って財産があったって、大事な命が失くなっちまったらどうすんのさ!」

「加代さんの言う通りだ。皆どうかしてるよ。いったいこんな俺達に何が出来るってんだ」

 加代子と梶の言葉に、他の者は無言でいた。

 澤村が、

「自分の場合は、初め匡さんの力になればといった思いでおりました。ですが、こうなると、皆さんはどうであれ、自分は……」

 と言いかけたところを松山が、

「俺の為だとか言うなら、それは無しにしてくれ。俺には小難しい事は判らん。
理屈で動ける程器用じゃないんだ。下らない理由と皆に思われるかも知れないが、俺は意味も無く殺してしまった相手への詫びの一心でしかない」

 と制した。

「澤村、お前は手を引け。老い先短い俺とは違うんだ。この先、親栄会の頭も張れる未来があるんだから……」

「匡さん、その話しは前にしてるじゃないですか。たとえ匡さんが邪魔だと言っても、自分は勝手に動きますから」

「あんたらね、何でもカッコ付ければいいってもんじゃないんだよ。そんな安っぽい任侠映画みたいな台詞吐いたって、どうにもなんないのは、最後迄どうにもなんないの!」

「姐御らしくもないな。相手が途方も無く大きいなんて事位、初めから判ってた事じゃないか」

「一緒にやりたくない奴はやらなきゃいいさ」

「ちょっと、そういう言い方は無いだろう」

 それぞれが、それぞれの思いの丈をぶつけ合った。

 その日は結局互いに言い争うだけで無駄な時間を費やした。

 澤村は念を入れて、とにかく暫くは此処を動くなと言った。そして、その言葉の意味には別な含みもあった。

 匡さん、悪いが、この先は若い者に任せて貰いますよ………

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