明日なき狼達
 荒っぽい仕事で中国人を使った事は、澤村もあった。確かに金さえきちんと払えば、大概の事をやってくれる。それも、べらぼうに安い金額でだ。だが、調べ事とかに彼らが向いてるようには思えない。

 澤村はその辺を危惧したが、浅井を信じて任せる事にした。

 最後の実行に移す段階で、自らが出向けば済むだけの事……そう腹を括った。

 浅井が頼んだ中国人グループは、元の香港マフィアの連中であった。

 1999年の香港返還の際に、大半の香港マフィアの連中が、アメリカに渡ったが、一部の人間は日本を目指した。当時、既に日本には蛇頭(スネークヘッド)を筆頭とした中国本土(福建省)のマフィア組織が入り込んでいた。日本が彼らにとって犯罪天国であると噂になっていたから、香港の連中も乗り遅れまいとしてやって来たのである。

 犯罪をビジネス化する事に関していえば、本土の連中よりも、やはり香港の連中の方が垢抜けていた。

 浅井が頼んだ中国人はそういった連中であった。

 彼らのネットワークの広さを物語るかのように、吉見と思われる人間の死体を始末してくれと、大阪の中国人グループが頼まれた情報がすぐに浅井の耳に入って来た。大阪の中国人グループに死体の始末を依頼して来た者は、どう見てもヤクザ風ではなく、ステレオタイプの役人風だったという。

 内調?

 その話しを聞いた浅井はそう考え、間違い無く死体は吉見であり、滝沢の手にダイヤも取り戻されたと確信したのである。更に翌日、かなりの数の高級ダイヤが、裏ルートで市場に売られ出したという情報も入って来た。

 ダイヤの表市場は、ユダヤ人の独壇場だが、裏ルートとなると、華僑の連中に敵う者はいない。

 そして、もう一つ重要な情報が浅井の元に入って来た。

 滝沢が、ダイヤを横取りしようとした他の人間について、捜し回っている……しかも、懸賞金付きで……。

 浅井はその話しを澤村にした。

「すぐに何か手を打たないと……」

 滝沢は、ありとあらゆる裏のネットワークを駆使して来るだろうから、恐らく松山達の仕業である事が判明するのも時間の問題であろう。吉見の線から野島の名前が判るのは簡単な事だ。

 やはり先に滝沢を……

 事を急がねば……

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