明日なき狼達
「滝沢の行動パターン、私生活、とにかくどんな些細な事でも構わないから、集められるだけ情報を集めて欲しいんだ。それも、鮮度のいいやつを」

「判ってる。もう手は打ってる」

 浅井は、澤村が少し焦り気味ではないかと心配になっていた。

 確かに、澤村は気付かぬうちに焦り出していた。

 先に殺らねば……

 その思いで視野が狭くなり始めていた。

 ある夜、澤村は辻一世に呼ばれた。

 場所は銀座の自宅ではなく、神楽坂の料亭であった。指定された時間に行ってみると、その席に思いも寄らぬ人物が来ていた。

 上座に辻が座り、その右隣に滝沢秋明が居た。

 澤村は、二人から距離を置き、下座で足を揃え、緊張した面持ちで滝沢の表情を窺った。

「澤村君、滝沢君と顔を会わすのは初めてかな?」

「直接、御尊顏を拝しましたのは、今夜が初めてです」

 頭を下げる澤村に滝沢は、

「君の所の三輪君からはよく話しに聞いている。よかったら近付きになってくれ」

「はい……」

 辻は謎めいた笑みを浮かべ、

「今夜は気を使わぬ席という事で君と滝沢君を引き合わせたんだ。余り硬くならず、何時もの君のようにざっくばらんになりたまえ」

 そう言いながら、自ら澤村に酒を注いだ。

 両手で盃を拝むようにして受けた。

 心無しか手が震えている。

 辻の目は、まるで澤村の心中を見透かしているような眼差しであった。

「滝沢君が、以前から君のとこの親栄会と、大阪の尚武会を縁組させて、日本のヤクザ社会にそれ迄には無かった秩序をもたらそうと考えている事は知っているな」

「……」

 澤村は言葉に出して返事をする事に躊躇いを感じていた。

「彼の行動は、私利私欲から来ているものでは無く、真に日本の極道界を憂いての一心からとの事だ。今夜は、その辺の話しも含めて、せっかくだからゆっくりと歓談したまえ」

 辻の言葉が遠い別な場所から聞こえて来てるような感じになっていた。

 頭の中は、様々な思いが駆け巡っている。

 辻一世は何の為に自分と滝沢を引き合わせているのだろうか……

 自分が滝沢を敵に回そうとしてるのを知ってての今夜の席であるならば、辻も敵になる……

 そう思った。

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