明日なき狼達
「澤村君といったかな、君の事は前々から辻先生や君の所の三輪から話しには聞いていた。将来の親栄会を背負って立つ人間だと、若頭の西尾君も言っている。そういう君から忌憚の無い話しを聞けたら、私としても今夜は有意義な席となるものだ」

「はい……」

「話しに聞くと、君は旧百人会の出だと聞いたが、誰の下に居たのかね」

「はい、百人会の頭をしておりました、水嶋省吾に盃を頂きました」

「おぉ、水嶋君なら、私も何度か仕事を頼んだ事があった。そうか、水嶋の下でな……」

 水嶋と滝沢が仕事をしたという話しは初耳だ。

 死んだ水嶋からは一切そんな話しは聞いていない。

「知っての通り、私は三輪とは旧百人会で彼が売り出す前から何かと目を掛けていたんだ。まあ、大所帯を切り盛り出来るだけの器量は三輪には残念ながら無い。その辺の所は、部外者である私達よりは、中に居る人間の方が判っているのだろうがね」

「いいえ、そんな事は……」

 澤村の言い澱んだ言葉に、滝沢は狡猾そうな笑みを見せた。

「ところでだが、ちょっといろいろ聞きたい事があるのだが」

「何でしょうか……」

「人を捜している」

「……」

「松山匡は知っているな?」

 澤村は自分の顔色が変わっていないか、気掛かりになって来た。

「以前、百人会におりました頃、何かと世話になっていました」

「そうか。一番最近に会ったのは何時頃かね?」

「務めに行かれる前でしたから、かれこれ十五年近く前になりますが」

「そうか。ならば野島という刑事の事は?」

「いいえ、存じ上げませんが」

「ならば、元警察庁の人間で、吉見という名前に聞き覚えは?」

 澤村は背筋に刃物を当てられているような気分になって来た。

「いえ。渋谷署のマル暴なら大概は知っておりますが」

「そうか。ならば、今後、今の人間達の噂なり話しを耳にしたら、すぐに私の所へ連絡をくれないか」

「判りました……」

「滝沢君、不粋な話しはその辺にして、そろそろ綺麗どこの御来場の時間としないか」

 そう言って辻が手を叩くと、艶やかな着物姿の芸者衆が部屋に入って来た。


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