明日なき狼達
 車を呼んで貰い、辻を見送った。

 澤村は、辻との話しをもう一度振り返っていた。

 偉そうに言ったが、果たして本当に自分には揺るぎないだけの強い気持ちがあるのだろか……

 例え相手がどんなに悪魔のような輩であろうとも、人間である以上、その命を絶ちに行くという事は、本来は人の道に外れている行為なのだと、辻の言葉からは伺えた。

 歩きながら物思いに更けているうちに、不忍池の近く迄来ていた。

 若いカップルが、肌寒い夜空の下、二人だけの世界を楽しんでいる。

 自分にはあんな時間を共に過ごせる相手は持てないな……

 何故かそんなふうに思ったりした。

 その澤村の後ろから、ずっと様子を窺っている男が居た。無表情で感情の起伏を見せないその男からは、得体の知れない不気味さが漂っていた。

 そんな男から後をつけられているとも知らず、澤村はタクシーを拾い、渋谷の自宅へと帰って行った。

 浅井から滝沢の件で話しがしたいと連絡が入ったのは、翌朝の事であった。

 浅井は、待ち合わせ場所に新宿の御苑近くにある喫茶店を指定して来た。自ら車を運転し、そこへ向かった。その後を昨夜の男がタクシーで尾行していた。

 御苑近くの喫茶店に入ると、既に浅井が一人の男と一緒に来ていた。

「待たせて済まん」

「いや、俺達もさっき来たばかりだ」

 浅井が連れていた男は、名前を黄と名乗った。

「香港マフィアの顔役だ。今回、いろいろと手助けをしてくれている」

「浅井さんには何時も助けて頂いてます。その恩返しになるのなら、何でもします」

 綺麗な日本語を喋る。

 日本に流れて来て、既に十年になろうとしているらしい。

 黄がもたらしてくれた情報は、滝沢の通う秘密倶楽部についてであった。

「私達の売春倶楽部も同じマンションにあるんです。私の所は六階で、滝沢が通う倶楽部はその上」

「頻繁に顔を出すのか?」

「月に一度。それも必ず月始めの五日と決まっています」

「一人でか?」

「車の運転手と、ボディガードの男が二人」

「全部で三人か……」

 澤村と浅井は、目を合わせて互いに頷きあった。

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