明日なき狼達
「十何年という、貴重な時間を貴方は償いで費やした。確かに死んだ方の人生や残された御家族の事を思えば、それで全て罪が償えたとは言い難いかも知れない。私のような者が判ったような事を言えた道理ではありませんが、貴方のお気持ちは何時かは通じるのでは……」

 児玉はそう言って自販機から二本のビールを取り出した。

「頂いてばかりで……」

「いいんです。私が飲みたいだけなんですから」

 そう言った児玉に男はハイライトを差し出した。

「申し遅れました、自分は松山といいます……」

「児玉です」

 酔いがゆっくりと二人の距離を縮めようとしてした。

「何かつまむ物が欲しくなりましたな」

「そうですね……」

 松山は席を立ち、売店の方を見た。

「何か買って来ましょう」

 松山は売店で売っている物を見回し、柿の種でも買おうかと思ったが、思い直し、烏賊の燻製にした。

 テーブルに戻りそれを置くと、

「私の好物だ」

 と児玉が笑った。

 好い人だな……

 松山は素直にそう感じた。

「今はどちらにお住まいで?」

「昔、世話になった方の所を転々としております」

「では又ヤクザの世界に?」

「いえ、皆さん堅気の方達でして……」

「そうですか」

「よくして頂くのは有り難いのですが、やはり自分の力で自活して行かないと……」

「そうですな。しかし、今のご時世じゃなかなか……」

「ええ、この歳ですと仕事はありませんし。しかも元ヤクザの前科者ですから。時々建築現場の仕事なんかをしたりしております」

「年寄りのお節介かも知れませんが、もし私でお力になれる事があれば……」

「お心遣いありがとうございます…そのお言葉だけで充分です」

「お気になさらずに」

 そう言って、児玉はポケットから手帳を出し、自分のケータイ番号を書いた。

 そのまま渡そうと思ったが、松山が十五年近く刑務所に居た事を思い出し、家の電話番号も書いた。

「電話を下さい。まあ、この歳で何ですが、新しい知り合いが出来るというものは、この上なく嬉しいもんなんです」

 渡された手帳の切れ端を、松山は大事そうに押しいただいた。
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